財務分析初心者デュポンシステムって何?
そんな疑問を解決していきます。
結論から言うと、デュポンシステムとは企業のROEを、
- 売上高純利益率
- 総資産回転率
- 財務レバレッジ
の3つの要素に分解して分析する手法のことです。
今回はROEの定義や特徴、デュポン分析の本質を介して「ROEが重視されている理由」を解説していきます。
この記事を見て分かることは、以下の2つです。
- ROEの特徴とデュポン分析の本質
- ROEが重要な理由






ROEとは
ROEとは「株主から調達した資本を活用して、どれだけ効率的に、株主のために使える利益を稼いだか」を示す指標です。
つまり、株主が毎年期待できる投資リターンを表します。
「当期純利益の全額が配当として還元されるわけではないよね?」と思われたかもしれませんが、あくまで”期待値”です。
あくまで期待値なのですが、ROEは配当による投資リターンの目安として十分に機能します。
理由は、これから解説していきますね。
ROEの計算式
では、まずROEの計算式を確認していきましょう。
ROE=当期純利益÷期中平均自己資本
ROEを構成するこれらの項目、「当期純利益」「自己資本」は何を表しているのでしょうか?
当期純利益とは
まずは、分子の当期純利益です。
当期純利益は損益計算書の末尾項目で、取引先や銀行など、株主以外のすべての利害関係者に代金を支払い、最後に残った株主のための金額になります。
株主資本と自己資本と純資産の違い
次に、ROEの分母にある「自己資本」についてです。
「自己資本」は、「純資産」に近い概念ですが、厳密には違います。
ROEをより厳密に計算する際には分母に自己資本を使用します。
自己資本=純資産-新株予約権-非支配株主持分
株主に帰属する部分の自己資本を分母に持ってくることで、分子の株主に還元できる当期純利益に対応するのです。
上述の内容をまとめると、分子の当期純利益は株主へ還元される利益であり、分母の自己資本は、株主から調達した資金の合計額です。
この2つを組み合わせたROEは、株主目線で見れば「儲かりそうな会社」を効率的に見極める指標と言えます。
ROEはなぜ重要なのか
ROEは株価と連動しやすいから
企業の経営者や投資家は、株価の変動に敏感です。
ROEは、その株価に対して影響を与える指標であると考えられるため、市場では特に重要視されています。
では、なぜROEは株価と連動すると考えられるのでしょうか?
なぜROEが株価の連動する?
理論株価の計算式
ROEと株価の関係性を会計とファイナンスの両面から解説します。
ROEは理論株価を構成するひとつの要素です
理論株価=PER×BPS×ROE
- PER⇒株価収益倍率(時価総額÷当期純利益)
- BPS⇒一株当たり純資産(自己資本÷発行株式総数)
- ROE⇒自己資本利益率(当期純利益÷自己資本)
実務上では、目標とする株価を決定し、逆算してPERとBPSとROEのそれぞれの目標値が設定されます。
その際に、比較的コントロールがしやすいROEを、どのようにして向上させるかを、話し合います。
ROEが高い企業が高いということは、効率的に当期純利益を稼ぐ企業ということです。
つまり、配当に回せるキャッシュが多いということになります。
持続的に高い配当を期待できると考えられるため、結果的に株価上昇に繋がります。
ROEが高い企業ほど将来的に株価が上昇しやすい理論的な背景があるということです。
デュポン・システムでROEを分解しよう
ROEを、どのようにして向上させるかを検討する時に登場するのが、デュポン分析です。
デュポン分析は、米国のDu Pontという会社が最初に財務分析に使ったことで、「デュポンシステム」と呼ばれており、下記の式で表されます。
ROE=売上高当期純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
デュポン分析はROEを、
- 収益性⇒売上高当期純利益率(当期純利益÷売上高)
- 効率性⇒総資産回転率(売上高÷総資産)
- 安全性⇒財務レバレッジ(総資産÷自己資本)
の3要素に分解することで「どの要素がROEに最も貢献しているか?」を客観的に分析できる点にあります。




売上高当期純利益率とは
売上高当期純利益率は、売上高に対して当期純利益がどの程度あるかを示す値です。
売上高当期純利益率は、以下の式によって算定することができます。
売上高当期純利益率=当期純利益÷売上高
当期純利益は当期における最終的な利益で、売上高当期純利益率を算出することで企業の総合的な収益力を把握できます。
総資産回転率とは
総資本回転率は、会社が持っている総資産によって、どれくらいの売上高が生まれているのかを把握するための指標です。
総資本回転率は、以下の式で算定することができます。
総資本回転率=売上高÷総資本
これを理解するのは少し難しいので、具体例を考えてみます。
- 100万円の総資本で500万円の売上高を生み出す会社A⇒総資本回転率は5回転
- 1000万円の総資本で1,000万円の売上高を生み出す会社B⇒総資本回転率は1回転
この場合、売上高で買っているのは会社Bですが、会社Aの方が効率的に総資産を使用していることが感覚的にも分かるかと思います。
総資産回転率は、どのくらい総資本を効率的に使えているかを表す指標です。
財務レバレッジとは
財務レバレッジとは、他人資本を活用して、自己資本の何倍の総資産を調達できているか測定する指標です。
財務レバレッジは、以下の式で算定することができます。
総資産 ÷ 自己資本
1÷自己資本比率
他人資本の増加による財務レバレッジの上昇は、好況時にはROEの向上に貢献しますが、同時に企業の安全性を低下させます。
なぜなら、企業の業績の変動を増幅させる要因の1つである他人資本の固定的な利子が、当期純利益を圧迫し、不況時にはROEの値を著しく下げるからです。
財務レバレッジは「負債の借入」や「自社株買い」などにより、経営陣がある程度のコントロールが可能な変数です。
デュポン分析の本質
デュポン分析の本質は「各社のROEは安全性をどの程度犠牲にした上で算定されているのか」を計測することです。
どういうことかというと、ROEは、
ROE=ROA×財務レバレッジ
と分解できるため、収益性と効率性を分析したいだけならROAの数値を見ればいいのです。
つまり、ROEのデュポン分析を使う意義は「安全性をどの程度犠牲にして収益を得ているのか確認するため」と言えるでしょう。
業績の良い企業ほど、ROEを継続的に伸ばすのが難しいので、経営者は「借入」や「自社株買い」をして、財務レバレッジをかけていきます。
しかし、財務レバレッジに頼りすぎると、倒産の危険性も高まるので、本末転倒になりかねません。
財務レバレッジを観察することで、経営者のリスク管理能力を把握することができます。
まとめ:デュポン・システムでROEを分析しよう
デュポンシステムについて、少しでも理解できたでしょうか?
ROEという株価と密接に関係している指標を分解することで、企業価値を向上のための目標を立てることができるのです。
今回のポイントは、
- ROEは、株価と連動する
- デュポン分析は「どの程度の安全性を犠牲にして、収益を上げているか」を観察できる
以上2点です。
いろいろな指標を勉強して、楽しく財務分析をしていきましょう。














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