解けたはずの連結が、少し変わっただけで解けない
簿記1級の勉強をしていると、こんなことはありませんか。
連結会計。子会社の株を全部持っている問題は、もう何度も解きました。投資と資本の相殺消去も、のれんの計算も、考えなくても書けます。
ところが、株を8割だけ持っている問題になった途端、解けなくなる。残り2割の株主の分(非支配株主持分)は、どこに入れるんだっけ。
解説を読むと「ああ、なるほど」。翌週、似た問題でまた解けない。
こういうとき、「自分は理解力がないのかもしれない」と思いがちです。でも、先に伝えたいことがあります。それは能力の問題ではありません。次に何を練習すればいいかが、分かったということです。
最初は、私も全く分かりませんでした
私は簿記3級に4回落ちたところから始めました。2級に受かってから1級に受かるまで、3,000時間以上かかっています。教材も何度も乗り換えました。遠回りもたくさんしました。
それでも、最初は全く分からなかったものが、繰り返すうちに分かるようになりました。
だから断言できます。理解は、生まれつき持っているかどうかで決まるものではありません。練習で身につけられるものです。そして、身につける順番があります。
「分かった」には、4つの段階がある
「理解できた」という一言には、実は違う状態が混ざっています。分けると、こうなります。
- 解説を見れば分かる
- 解説を見なくても、自分で解き始められる(最初に書く仕訳や計算を、自分で書ける)
- 似た問題と比べて、どこが違うか言える
- 時間内に答案を書ける
冒頭の連結の例は、1段階目の状態です。何も悪くありません。次は2段階目を練習すればいいだけです。
なぜ「解説を読むと分かる」のに、解けないのか
1段階目と2段階目の間には、大きな差があります。私自身、ここで一度挫折しかけました。
1級の勉強を始めたとき、予備校の講義はとても分かりやすく、内容はちゃんと理解できました。ところが講義を見終えて過去問を開くと、4科目を全部解いて、合っているのが2問か3問。講義では分かっていたはずなのに、です。
当時は「この試験に足を踏み入れたのは間違いだったかも」と後悔しました。今は、理由をこう説明できます。
解説を読むときと、自分で解くときでは、頭の中でやっている作業が違うのです。
解説を読むときは、すでに書かれた手順を、1行ずつ「なるほど」と確かめていきます。次に何をするかは、解説が決めてくれています。
自分で解くときは違います。問題文に資料がたくさん並んでいて、どれから使うか、最初に何を計算するかを、自分で選ばなければいけません。連結なら、「まず子会社の資本を出すのか」「のれんから出すのか」「当期の利益を分けるのか」を、自分で決める必要があります。
解説を読んで分かるのは、「手順が正しいと確かめる力」です。問題を解くのに必要なのは、「次に何をするかを自分で選ぶ力」です。
この2つは別の力なので、片方だけを練習しても、もう片方は伸びません。だから「解説を読めば分かるのに解けない」は、能力が足りないのではなく、まだ「選ぶ」練習をしていないということです。
自分がいまどの段階にいるかが分かれば、やることは決まります。「理解力がない」という大きな悩みを、「この段階を練習する」という具体的な作業に変えられるのです。
試してみる①:減価償却に「なぜ」を2回聞く。なぜ減価償却をするのか。「費用と収益を対応させるため」。では、なぜ対応させるべきなのか。そう答えたあなたは、その考え方をどこで覚えましたか。
理由を説明する言葉も、最初は覚えたものです。つまり理解は、覚えたことをもとに、少しずつ広げていけるもの。だから、いまの段階から1つずつ進めば大丈夫です。
合格までの順番
4つの段階を、勉強の順番に置き直します。
ステップ1:最初に過去問をざっと見る
解けなくてかまいません。どんな資料が渡され、何を求められるのか、本番の出方を知るためです。出方を知っていると、問題集の1問ごとに、何のために解くのかが分かります。
ステップ2:問題量の多い問題集を、1周終わらせる
量が多いものを選ぶのは、似ているけれど条件が違う問題に触れたいからです。
7割分かったら次へ進む。 完璧を待つと進めなくなります。7割は私が勧める目安です。
ただし「なぜ」だけは納得してから進む。 理論を深く調べることではありません。「この条件だから、この処理をする」と自分の言葉で言えれば十分です。どうしても分からない所は、調べるか質問して、どこが分からないのかをはっきりさせておきます。
解説を読んで納得したら、一度閉じる。 閉じたまま、最初に書く仕訳や計算を自分で書けたら、2段階目に進めた証拠です。見ずに思い出す練習は、覚えるだけでなく、理解を問われる場面でも効くことが分かっています。
印は3種類つける。 「見れば分かる」「見ずに解ける」「違いを言える」。全部同じ丸にすると、次にどの問題を解き直せばいいか分からなくなります。解けなかったら「条件を読み落とした」のように短い一文を残す。それがそのまま次の練習になります。
試してみる②:似た2問を並べる。株を全部持つ問題と、8割だけ持つ問題を1問ずつ選び、横に並べてください。同じところと違うところを書き出します。工業簿記なら、解法の図に2問を当てはめて比べる。「この条件が違うから、ここだけ処理が変わる」と言えたら、3段階目です。
ステップ3:過去問は、写経から始める
問題集を終えたら、本格的に過去問へ。最初は写経(解答を見ながら書き写すこと)でいい。点が取れなくて普通です。 これまでの勉強が無駄だったわけではありません。
私も、過去問がまったく解けなかったころは、解答の下書きをそのまま写すことを何度も繰り返しました。それで「まったく分からない」状態から抜け出せました。
写すときは、解答の1行ごとに「この数字は問題文のどこから来たのか」を探します。次は解説を隠して、最初にどの計算から始めるかだけでも自分で選ぶ。写経は、見ないで解くための最初の練習です。
教材を変えたくなったら、一度確かめてください。説明が本当に分からないのか。それとも、読めば分かるけれど、まだ解説を見ずに自分で書けないだけなのか。後者なら、必要なのは新しい教材ではなく、今の教材を見ないで解く練習です。
ステップ4:直前の1か月は、時間を計る
時間を計って過去問と模試を解きます。新しい教材には手を出しません。ここで練習するのが4段階目、「時間内に答案を書ける」です。
なぜ3段階目まで来ても、時間を計る練習が別に要るのか。本番では、時間が足りない焦りの中で、資料の多い問題を読むことになるからです。
私は1級の本番で、何度も頭が真っ白になりました。最後の受験の前は、本試験と同じ時間帯に、必ず時間を計って解くようにしていました。それでも本番では、工業簿記の資料の多さにまた頭が真っ白になり、原価計算では生産・販売量を出せずに、その後の数字を続けて間違えました。
どの問題から解くか。解けない問題をいつ切り上げて次へ移るか。復習では点数と一緒に、どこで解けなくなったかを見ます。知識を思い出せなかったのか、問題文の条件を読み落としたのか、時間を使いすぎたのか。原因ごとに、必要な所だけ問題集へ戻ります。
条件の読み落としは、知識があっても起きます。私は全経簿記上級の本番で、工業簿記の「仕損品評価額」の資料を読み飛ばし、その数字を使う後ろの問題まで続けて落としました。時間を計って解き、読み落としを記録するのは、こういう失点を本番の前に見つけるためです。
今日、1問から始める
試してみる③:条件を1つ変える。解けた連結の問題を1問選び、解答を閉じてください。「持っている株が8割だったら、何が変わるか」「支配が続いたまま一部を売ったら、何が変わるか」を言葉で書きます。書けなかったところが、あなたが次に練習することです。
「自分は理解できる人なのか」と悩む時間を、「この問題で、次にどの段階を練習するか」を決める時間に変えてください。
分からないのは、まだ練習していないだけです。1段階ずつ進めば、確実にできることが増えます。最初は全く分からなかった私も、1級に合格しました。
あなたも、今日の1問から始めましょう。
(伴走では、いまどの段階にいるかを一緒に確かめて、次に練習する問題を決めています。)
簿記1級の合格伴走では、解いた問題を見ながら「見れば分かる」「見ずに解ける」「違いを言える」「時間内に書ける」のどこにいるかを確かめ、次に練習する問題を一緒に決めています。
まずは無料面談(30分・Zoom・カメラオフOK)で、いまの勉強の状況をうかがいます。その場で契約をお願いすることはありません。
このコラムで参考にした研究
本文では研究の名前を出さずに書きました。簿記以外の分野で確かめられたものを含みます。
- 思い出す練習:Karpicke & Blunt (2011, Science 331, 772)。科学の文章を使った実験で、見ずに思い出す練習が、文中の内容を問う問題でも推論を問う問題でも、概念マップを作りながら学ぶより成績を上げた。簿記の勉強法を直接比べた研究ではない。
- その場の出来と、あとまで残る学習:Soderstrom & Bjork (2015, Perspectives on Psychological Science 10, 176) が、Bjork らの研究をまとめている。学習中の出来は、あとまで残る学習の目安としては当てにならないことが多い。
- 比べると共通の解き方が分かる:Gick & Holyoak (1983, Cognitive Psychology 15, 1)。例が1つだと別の問題に使われにくく、2つを比べると共通の解き方に気づきやすくなる。
- 自分で説明する効果:Chi ら (1989, Cognitive Science 13, 145/1994, Cognitive Science 18, 439)。1989年の研究では、よくできる学生ほど例題の各手順を自分で説明していた。1994年の研究では、文章を1行読むごとに自分で説明するよう促された生徒のほうが、理解が深まった。


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